リンパ管拡張を伴うリンパ球形質細胞性腸症

概要

慢性的な嘔吐や下痢、食欲不振の原因は、ストレスや食べ物の嗜好といったものから、アレルギーや細菌感染、胃腸炎など実にさまざまです。
原因の特定が難しいため、何らかの病気が重症化し治療が困難になるケースもあります。

症例

ウェルシュ・コーギー(避妊雌・9歳齢)
体重 15.95kg

数日前からの水様性血便、嘔吐にて来院
既に他院にて治療開始
来院時、血便・嘔吐があり呼吸速迫・心音
聴取困難であった

検査

血液検査所見

CBC
RBC(x106/ul) 6.53 WBC(/ul) 34140
Hb(g/dl) 16.8 Band-N 443
PCV(%) 43.76 Seg-N 31579
MCV(fl) 69 Lym 853
MCH(pg) 25.8 Mon 1194
MCHC(%) 38.5 Eos 0
Bas 0
生化学検査
TP(g/dl) 3.3 Glu(mg/dl) 79
Alb(g/dl) 1.1 BUN(mg/dl) 7
Glb(g/dl) 2.2 Cre(mg/dl) 0.6
ALT(IU/l) 67 P(mg/dl) 4.8
AST(IU/l) 33 Ca(mg/dl) 11.4
ALP(IU/l) <50 Na(mmol/l) 151
TCho(mg/dl) 74 K(mmol/l) 4.3
TBil(mg/dl) <0.2 Cl(mmol/l) 113
TBA(umol/l) Pre <1.0
Post <1.0
CRP(mg/dl) 2.1
尿検査
USG 1.014 蛋白 + 30mg/dl
pH 9.0 潜血 ++ 0.2mg/dl
沈渣 RBC(-) WBC(-)
シート状の移行上皮細胞
(異型性はなし)
短桿菌・球菌(+)
糞便検査
寄生虫卵(-)
細菌異常(-)

レントゲン検査所見

  • 胸水所見(肺葉間裂あり)
  • 心拡大(-) (VHS 9.2)
  • 肺動脈/右心拡大(-)
  • 腰椎の骨棘形成

超音波検査所見

  • わずかな心嚢水と胸水の貯留
  • MR/TR(-)
  • 右心不全/左心負荷(-)
  • LA/AO 0.92
  • 腹水(-)
  • 小腸/十二指腸壁厚 5mm
  • 胃壁厚 5.5-6.0mm

診断的検査

除外診断より、蛋白漏出性腸症が疑われた

確定診断として、全身麻酔下(グリコパイロレートを前投与しプロポフォールにて導入、イソフルランにて維持)で内視鏡・腹腔鏡にて腸生検を実施

内視鏡検査

内視鏡にて胃・十二指腸・直腸内腔を観察した
胃・十二指腸の一部を採材

胃の粘膜の一部に軽度の糜爛が見られ、十二指腸は全域に白色斑点を認めた
直腸は肉眼的な異常は認めず

腹腔鏡検査

臍直下の皮膚を小切開し気腹針を挿入、気腹
ここへカメラポートを挿入し右側腹壁へ操作ポートを設置
小腸漿膜面全域に白色筋状の拡張したリンパ管と脂肪肉芽腫様病変を認めた
肝臓は全体的に腫大していた
操作ポートから把持鉗子を挿入し、小腸の一部を皮膚の切開創外へ引き出し、全層生検を実施
肝臓の一部も採材した

病理組織学的検査結果

内視鏡にて採材した胃・小腸
  • 胃は粘膜固有層の水腫
  • 小腸は粘膜がほとんど採材されていない
腹腔鏡にて採材した小腸・肝臓
  • 小腸は絨毛部リンパ管拡張を伴う中程度のリンパ球形質細胞性腸炎
  • 肝臓は肝細胞の重度の空胞変性

治療

  • 長期投与していたプレドニゾロン(1mg/kg BID)の漸減
  • シクロスポリン(5mg/kg SID)の併用
  • 抗生物質(ノルフロキサシン 16mg/kg BID、メトロニダゾール 13mg/kg BID)
  • 食事療法(ヒルズz/d)

経過

消化器症状は改善
TP 5.0g/dl、Alb 2.5g/dl前後で安定
術後、2週間で腹部縫合糸を抜糸

終わりに

難治性の腸疾患では確定診断として腸生検が必要ですが、従来の内視鏡のみでは確実な採材が不十分であり、全層生検が理想と思われます。

腸生検の方法として、従来の開腹術でなく内視鏡検査と腹腔鏡検査を組み合わせることで、必要最小限の切開創から確実な採材が可能となり、また、腸管の粘膜面側からだけでなく、漿膜面側からの観察や生検、他臓器の観察や生検が同時に行えます。

近年、腹腔鏡検査は開腹術に代わる検査法になりつつあり、QOL向上のひとつとして役立っています。

ご紹介した症例は当院における臨床症例の一部であり、全ての症例に適用されるものではありません。
また、記事の内容は掲載時のものであり、現状と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。