深部痛覚が消失した犬の椎体骨折

概要

犬の椎体骨折・脱臼は交通事故や落下、暴力など外傷が主な原因です。
治療成績は深部痛覚の有無により大きく左右されます。

症例

ゴールデン・レトリバー 1歳 雄
交通事故による後肢起立不能、努力性呼吸、口腔内出血

検査

血液検査
RBC(x106/ul) 662 WBC(/ul) 9730
PCV(%) 45.3
Hb(g/dl) 15.5
MCV(fl) 69
MCHC(%) 34.2
TP(g/dl) 5.9
Plat(x103/ul) 188
血液化学検査
TP 5.9g/dl BUN 20.0mg/dl
Alb 2.4g/dl Cre 1.9mg/dl
Glb 3.5g/dl Ca 10.7mg/dl
ALT >1000U/l P 4.5mg/dl
AST >1000U/l Na 142mmol/l
ALP 114U/l K 3.9mmol/l
TBil 0.4mg/dl Cl 121mmol/l
TCho 212mg/dl
Glu 131mg/

神経学的検査所見

  • 脳神経検査異常なし
  • 前肢の姿勢反応・脊髄反射異常なし
  • 後肢の姿勢反応の低下
  • 後肢の脊髄反射の亢進
  • 後肢の浅部痛覚を認める

レントゲン検査

治療および経過

第1病日 鼻カテーテルを留置
血管点滴開始
デキサメサゾン 1.0 mg/kg iv
第2病日 呼吸状態安定
後肢浅部痛覚はみられるが、後肢の麻痺の状態は変わらず
プレドニゾロン 1.0 mg/kg sc
第4病日 後肢の姿勢反応消失
および後肢深部痛覚の消失
椎体固定術実施
椎体固定術 麻酔前処置―グリコパイロレート ミダゾラム
麻酔導入― チオペンタール
麻酔維持― イソフルラン
体位―伏臥位
椎体固定術 1 背側正中からアプローチし、T9 から T13 までの筋肉、靭帯を分離
両側の横突起および肋骨頭を露出
椎体固定術2 関節突起のずれを確認後、脊髄の状態を確認
椎体のずれを修復後、 T11-12 間の関節突起を K -ワイヤー(1.5mm)で仮固定
椎体固定術 3 T9-13の各椎体に、合計8本の皮質骨用スクリュー(2.7mm)を左右から挿入
そのスクリューと椎体の両側に併置したピン(4.8mm)をサークラージワイヤー(18G)にて締結
椎体固定術4 ポリメチルメタクリレート(PMMA)で固定
術後レントゲン
術後リハビリテーション 術後翌日より他動的関節可動域訓練(PROM) 、引き込み反射の誘発、筋マッサージを積極的に行い、可能な限り強制起立、カートセラピーを行った
第8病日(術後4日目) 自力排尿可能になり、深部痛覚が認められた
第10病日(術後6日目) 浅部痛覚が認められた
第17病日(術後13日目) CP (0) 自力での起立および歩行が可能
第49病日(術後45日目)  姿勢反応良好
CP (2)  歩行良好

■椎体固定
椎体固定の目的 → 椎体の安定・再接合
術後の予後 → 痛覚反応が重要
早期の椎体固定推奨

深部痛覚消失後でも早期の手術により回復する可能性があります。
今回の症例では積極的な椎体固定とリハビリテーションの重要性が認められました。

ご紹介した症例は当院における臨床症例の一部であり、全ての症例に適用されるものではありません。
また、記事の内容は掲載時のものであり、現状と異なる場合があります。あらかじめご了承下さい。